SF第5戦もてぎ、野尻智紀が今季3勝目!
8月28、29日の両日、栃木・ツインリンクもてぎで開催された全日本スーパーフォーミュラ選手権第5戦。シーズン後半戦の初戦に位置する今大会では、ポールポジションからスタートを切った#16 野尻智紀(TEAM MUGEN)が安定感ある速さと緻密なレース運びを見せてシーズン3勝目を挙げ、チャンピオンタイトル獲得のチャンスをさらに引き寄せている。
8月中旬、不安定な天候な続いた日本列島。まるで梅雨どきのような長雨に見舞われるなどしたが、今大会を迎えたもてぎは厳しい日差しが照りつけ、猛暑の中でセッションが実施された。まず予選日の朝、フリー走行でトップタイムをマークしたのは開幕からの2連勝で現時点でランキングトップに立つ野尻。気温、路面温度が徐々に上昇する中、午後からのタイムアタックに向けて各車は念入りにセットアップやタイヤコンディションの確認に取り組んだ。
迎えたノックアウト予選。なお、今大会から予選Q2もQ1同様にA、Bの組分けを実施することが正式に決まり、これに合わせてスポーティングレギュレーションが一部改正されている。まずQ1では、各組上位7台がQ2へと進出。Q2では各組上位4台がQ3に進み、最終的にQ3では8台によるポールポジション争いを繰り広げる。なお、今回は各セッションとも僅差でQ2、Q3進出のチャンスを絶たれるドライバーが続出するという過酷な争いになった。中でもQ1・B組ではディフェンディングチャンピオンである#1 山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)が9番手で敗退を喫した。さらにQ2では、A組は#4 山下健太(KONDO RACING)が0.009秒差で、B組では前大会の覇者の#5 福住仁嶺(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)が0.018秒差でQ3進出を逃すなど、波乱含みの展開となった。
一方、最終アタックセッションのQ3に向けて、ピカイチの速さを見せつけたのは野尻。フリー走行に始まり、Q1、Q2とこれまでの全セッションで最速タイムをマーク。加えて今回はタイムアタックのスタイルにも自身にとって最適なアプローチを見出した。通常、スーパーフォーミュラでの予選アタックは、ピットアウト、アウトラップを経てアタックラップに入るのがおおよそのセオリーになるのだが、野尻は、ピットアウト後にそのままアタックラップへと突入。タイヤの温め方など決して容易な方法ではないが、野尻はQ1からQ3まで全セッションをこのスタイルでアタック。まずQ1からライバルを大きく出し抜く唯一の1分31秒台を叩き出し、これまでのコースレコードに肉薄するという破格の走りを見せていた。そのアプローチはQ3に入っても変わらず。”我関せず”とばかり、自信あふれる独自のタイムアタックを貫き、刻んだタイムは1分31秒073。この日のポールポジションタイムは、コースレコード更新を伴うものでもあった。続く2番手は、前大会のポールシッターである#19 関口雄飛(carenex TEAM IMPUL)。野尻にはおよそ0.3秒弱の差をつけられてしまった。そして3番手は#51 松下信治(B-MAX RACING TEAM)。松下はシーズン初の予選トップ3に名を連ね、決勝に向けて弾みをつける結果を残している。
土曜の夜遅くから雨となったもてぎ。だが、決勝日の朝9時からのフリー走行ではドライタイヤでの走行が可能で、各車決勝に向けての最終確認を行った。セッション終盤、ポツポツと雨が落ちはじめウェット宣言も出されたが、影響を与えることもなく走行を終えた。迎えた決勝。薄曇りの空が広がり、強い日差しもない中、気温31度、路面温度36度と前日より涼しいコンディションからスタート。今回は35周、170km弱のショートレースとなる。スタートを文句なしに決めた野尻に関口が食らい付き、予選5番手の#20 平川 亮(carenex TEAM IMPUL)が3番手を一気に狙う。だが、1コーナーで予選3番手の松下がしっかりおさえ、ポジションキープを果たした。一方、中団グループではV時コーナーで多重接触が発生する。これは、#3 山下健太(KONDO RACING)が#5 福住仁嶺(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)のリヤテールに接触。これで福住が堪えきれずにハーフスピンすると、その後続車両が行き場を失い、次々に接触。この時点で早くも3台がリタイヤした。なおこのアクシデントを受けて2周目からセーフティカーがコースイン、4周目終了時にリスタートした。
トップ野尻はペースアップしながら後続との差を徐々に広げる快走。どこまで逃げるかと思いきや、2番手の関口が10周終了時点でピットイン。アンダーカットを目論み、いち早く動いた。すると野尻も翌周にピットイン。ややピット作業に時間がかかったが、関口よりも前でコースに復帰。トップを守り切った。この時点でピットインを済ませた車両はほぼ半数。実質3番手を走っていた松下は、ピットインのタイミングを決めかねていたようだが、最終的には15周終わりに実施。6.7秒と野尻よりも速いタイムでコースに戻ったものの、野尻、関口に次いで3番手というポジションに変わりはなかった。
レース前半でトップ3台がピット作業を終えた一方、実のところ序盤に4番手を走行していた平川はクリアになったコースを味方にしてペースアップ、先にタイヤ交換を済ませたライバル達を上回るラップタイムを刻み、コツコツとその差を縮めていた。またその状況を踏まえて野尻もペースアップ。ただ、レース序盤にタイヤ交換をしていることから、もし終盤に平川との一騎打ちにでもなれば、タイヤコンディションに勝るライバルとのバトルは手厳しいものになると判断。少しペースを落としつつ、背後の関口を封じ込める走りに切り替えた。そして26周終わりでピットインした平川。だが、作業に要した時間は8.0秒。ピットロード出口までクルマが近づいた時点で、トップの野尻はもちろんのこと関口にも先行されてしまう。なんとか3番手でコースインしたものの、すぐさま1コーナーで松下にも先行を許し、4番手に。その焦りからか、平川はまだ充分に温まっていないタイヤの中、5コーナーでオーバーラン。ポジションを落とすことはなかったが、優勝争いから3位表彰台へとターゲット変更を強いられた。
”見えない敵”との戦いを経て、正真正銘のトップに立った野尻。後続の関口との差も3秒前後まで広がり、あとはチェッカーを目指すのみ。関口は、ファイナルラップで残りのオーバーテイクシステムをすべて使い切るなど最後まで勝負にこだわりを見せたが、逆転には至らず。このままフィニッシュを迎えた。なお、3位争いは終盤に佳境を迎え、松下と平川が激しい攻防戦を展開。90度コーナーでのブレーキングやS字の飛び込みなどで手に汗握るクリーンファイトを繰り広げた末、松下が平川を封じ込み、3位表彰台を手にしている。
(文:島村元子 撮影:中村佳史)